草もちは、平安朝のはじめにあったといわれ、当時は〝ははこもち”と呼ばれていました。
三代実録の嘉祥三年(八四九年)三月三日のくだりに、「田野草あり、俗に母子草と名づく、二月はじめて生ず、茎葉白脆(けいようはくぜい)、三月三日婦女これを探(と)り、
蒸し搗きてもちとなし、伝えて歳事となす」とあり、これが史事に見えた始まりといわれます。
なお、伝説によりますと、わが国の医薬の神さま〝少彦名命”(すくなひこなのみこと)が病める者に〝おけら草”を探って服せしめたところ、たちまちにして平癒したので、これを餅にまぜるようになったという伝説が見られます。
また、一説では、室町時代の頃に、摂津国有馬郡水沢寺の開祖として有名な〝通幻禅師”が母子草で餅を作り、三月三日をもって歳事としたのに始まるとも伝えられております。
なお、〝おけら草”というのは判りませんが、昔は〝ははこぐさ”を用いたといい、現今では蓬(よもぎ)を用いています。
1979年4月 「製菓製パン」誌より